「とおいせかいのむかしのはなし」

昔々のそのまた昔。とある国の女王の話。

一人の少女は呪いを受けた。火の竜の呪いを受けた。手に取るは朱の槍。身に纏うは真紅のドレス。澄んだ水色の瞳は空を映し、くすんだ灰色の髪は風に靡いた。

「槍を取れ!全ては愛する者の為に!」

女王は戦った。先陣を切って戦った。
全ては国民の為に。愛する国民の為に。

ある国があった。
武力を求める余りに罪を成した国があった。
その国が女王の国へ宣戦布告をした。

大戦になった。

騎士が死に、平民が死に、子供が死んだ。
女王は憎んだ。己が無力であることを憎んだ。

女王は思った。
「己が圧倒的力を持つことで、国民が救われる」と。

それ以来、女王は己の小さな身体に閉じ込められた炎竜の力を惜しみなく使った。惜しみなく使って他国を圧倒して行った。

それは、少女が嫌っていた「侵攻」そのものであった。
自国の兵士も死に、他国の兵士も死ぬ。
彼女が嫌っていた最悪の形を、彼女は自らの意思で行ってしまった。



何時からだろうか。
女王が臣下と民の信用を失くしたのは。
二人の文官の片方が、他の騎士達を連れて反旗を翻したのだ。
城内は二つの勢力に割れ、幾日の末に無慈悲にも女王は捕えられた。


幼き17の女王は、首を断たれることとなった。
幼馴染の、騎士の手によって。


「ここに悪の女王は死んだ!新たな時代の幕開けだ!」

その声に民は沸き、喝采をあげた。


今も少女は語り継がれる。
「悪しき竜の女王」と。